地盤研究財団
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No.30
(2017.4 〜 2018.3)

序文

 2016年の秋、宮崎県の耳川を訪れた。一連のダムを改造して、ダムに溜まる土砂を海に流す事業を視察するためである。耳川の名を耳にしたのは1990年初頭である。耳川の右岸を走る国道327号の拡幅工事により生じた斜面崩壊を撮影したビデオを手にした時である。耳川は、V字谷を形成し、流路は岩質の差によって蛇行している。当該地域の岩盤は、第三紀四万十累層の砂岩・頁岩である。耳川の山裾に沿って現道が通っており、現道拡幅のため、約250m区間の切土のり面が計画された。切土は1988年2月に開始され、8段ののり面のうち最下段を切土中の1990年4月20日、モルタル吹付のクラックと下から2段目のり面の押し出しが発見された。直ちに、のり面全体を調査した結果、のり面崩壊の危険性が高いと判断し、この区間を全面通行止めとし、変状箇所に伸縮計、岩盤変位計を設置して計測を開始した。計測時間と変位量を知って斜面崩壊の日時を予測する斎藤迪孝の手法がある。崩壊予測は、5月18日から開始したが、5月29日には、 6月1日に崩壊が生じると予測された。5月30日、予測カーブが直線的に増加し、6月1日以前に崩壊するとの予測になり、5月31日昼の12時において、2〜3時間後に崩壊が生じるとの予測となり、午後3時15分斜面崩壊が発生した。3台のカメラが待ち構えており、崩壊の一部始終が記録され、私は国内外の講演会でこの映像を使用させていただいている。

 耳川は、九州の南東部をほぼ東に流れて日向灘に注ぐ宮崎県有数の河川である。耳川流域の大半は急峻な山地からなり、中流部には崩壊しやすい四万十累層の砂岩・頁岩及びその互層が分布している。このため、耳川流域は山腹崩壊が多発する地形・地質となっている。また耳川では、豊富な水量と急峻な地形を背景に、昭和の初めから電源開発が行われ、現在、7つの水力発電用ダムがあって、九州最大の水力発電地域となっている。2005年9月の台風14号は、耳川流域に甚大な洪水被害をもたらした。特に、山須原ダム貯水池上流端に位置する諸塚村の中心部は壊滅的な被害を受けた。耳川流域では、大小500箇所の山腹崩壊が発生し、河川やダム貯水池に大量の土砂や流木が流れ込み洪水被害を拡大させた。このため、宮崎県では、土砂に起因する甚大な被害の発生を踏まえ、流域全体の関係者による行動(対策)を体系化した「耳川水系総合土砂管理計画」を2011年10月に策定し、山地から河川、ダム、河口・海岸までの土砂に関わる様々な問題の解決に向けた取組を流域関係者と共に推進している。この事業では、耳川上流域においては、河道掘削や宅地嵩上げなどの治水対策と既存のダムを改造し、大規模出水時に河川やダムに流れ込んだ土砂を下流に流下させる「ダム通砂機能向上」を組み合わせた整備手法を耳川水系河川整備計画に盛り込んでいる。すなわち、台風などの大規模出水時に河川やダムに流れ込んだ土砂を下流に流下させる「ダム通砂機能向上」を目的としたダムの改造工事など、全国的にも例を見ない先駆的なものが含まれており、学ぶべき事業であると考える。

 さて、本論文報告集は平成29年度(2017年4月−2018年3月)における他機関との共同研究を含め当財団の所員が公表した研究成果をまとめたものであり、関係各位に感謝申し上げ、序文とする。

 

平成30年7月

 代表理事   足立紀尚
財団法人 地域 地盤 環境 研究所
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